キミに出会うまで
「頼み、ですか?」


「うん、おまえにしか頼めるヤツいなくて」


「とりあえず、聞くだけ聞きますよ」


「俺の両親がさ、北海道から遊びに来ることになって。


俺んちにも来たいって言ってて」


「まあ、そうなるでしょうね」


「で、おまえに、俺の彼女のフリをしてほしいんだ」


「はーっ?」


あまりにも驚いて、タメ口になっちゃったよ。


「そんなこと、できるわけないですよ」


「非常識な頼みだとは思ってる。


でも、ちょっと理由があって。


俺さ、大学の時から付き合ってた彼女がいてさ、結婚するつもりだったから、あのマンションも買ったんだよな」


へー、だから一人で3LDKなんかに住んでるんだ。


「両親に会わせる前に別れちゃって、もう1年たつんだけど、言い出しにくくって、そのままにしててさ。


そしたら、急にこっちへ来ることになって、会わせろってうるさくて」


北海道に住んでるなら、なかなか会う機会もないし、ご両親の気持ちは理解できる。


「彼女の写真とかも見せたことなかったんですか?」


「ない」


「でも、私には無理です!」


「なんでだよ?」


「ご両親の前で、森さんの彼女のフリをするなんて、演劇部にいたわけでもないシロートの私には無理です!」


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