キミに出会うまで
「じゃあ、ゆっくり休んで。


私は、後片づけしたら帰るから」


「ごめんな、今度埋め合わせする」


「うん、楽しみにしてる」



寝室に入るのを見届けて、食器を洗って洗濯物を干した。




帰ろうとして、鍵をどうするか聞き忘れたことを思いだして、ノックしてから寝室に入った。


森さんはぐっすり眠っていた。


そっとおでこにさわると、少しは熱が下がっている気がした。


悪いと思ったけど、少しゆすって起こしてみた。


「・・・ま、ゆみ?」


元カノの名前かな。


どうしよう。


「ごめん、違うよ、私は・・・」


言いかけた私の手を握って、


「もう、どこにも行くなよ」


目を閉じたまま、強い口調で言いきった。



このまま、手を握っていたら。


森さんは落ち着いて、眠れるかな。


そっと髪をなでて、私はしばらく森さんを見つめていた。






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