気になるパラドクス
こういう時って、身長も体格も関係ないかな。なんか大きくて可愛い動物が目の前にいる。

どうしよう。

可愛くて、愛おしいって言うかさ。

なんて言うか、なんとも……嬉しいじゃない?

嬉しくて……さ?

「なんで泣くんだ?」

「顔見てないくせに、なんでそんな事わかるのよ」

「いや、うっすら見えてるだろ」

指の間から見るとか、あんたは子供か。

ちょっと溢れそうになった涙をぬぐってから、髪を指に巻き付けてみる。

「だ、だって、そんな風に思われる事って無くて……」

「うん?」

両手を下ろして、訝しげな顔をする彼に苦笑した。

「ほら、見た目こんなだし。可愛いかっこうも似合わないし、割りと、後腐れない人間に思われがちでさ?」

視線を外しながら、ソファの上に正座をすると、黒埼さんもソファの上にあぐらをかいた。

……人様の家のソファで、こんな形で向き合っているのは妙な感じがするけれど、人間には勢いも大切だ。

私みたいな人間には、それはもっと大切な事に思える。

「そんなんでも好きって言われたら嬉しいし、付き合おうって言われたら頑張ろうって思ったし」

「……そうか」

だけど、どうしても無理が出る。

「可愛いのが好きなんだもん。私は可愛くないかもしれないけど、可愛いものが好きで……」

でも、そういうのは今まで全部否定されてきていたから……。

黒埼さんが困ったような顔をして、それから両手を広げるから……黙って手を伸ばしてその胸に寄り添った。

「黒埼さん。そういうの気にしないみたいだし……嬉しいじゃない」

そうして抱きしめられて、しばらくすると、ポツリと黒埼さんが呟く。

「……女って、嬉しくても泣くから困るんだけど」

ちょっと、笑えてしまった。

全くご挨拶になっていない黒埼さんのご実家訪問は、その後、覗き見していた真理さんに彼が雷を落として幕を閉じる。

……こんなことでいいのか、とっても懐疑的ではあるけど、実家の母にはメールをしてみようかと思えた。

【いい人を見つけられたみたい】って。









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