気になるパラドクス
落とし物は手のひらに

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「一日遅れのクリスマスですねー、村居さん?」

爽やかだけど、面白がっている雰囲気の磯村くんを眺めて目を細める。

「はい。書類ならさっさと提出」

片手を出すと、磯村くんの完璧な笑顔が微かにひきつった。

「村居さんて、昔からそうですよね」

磯村くんから書類を受け取って、眉を上げる。

「そう……って何がですかー?」

「ツンデレなとこ」

「そんな萌えキャラしてません。ところでこれは年内に必要?」

「来年の挨拶回りに間に合えばいいですよ。だいたい年内の仕事を、この時期まで決着つけないわけないじゃないですか」

さすが営業トップクラス常連。言うことが違うわ。御用納の28日までに、頑張っちゃう人も中にはいるんだけどね。

「まぁ、28日なんてほとんど大掃除だけだしね」

それでもバタバタしている人はバタバタしていたりする。

確かに最近は、ギリギリまで営業すれば業績が上がる時代でもないし、ノー残業でスマートに仕事をこなす営業さんが増えた。

そもそも、うちは残業にうるさいけど、私が入社したての頃はサービス残業してなんぼって先輩営業さんも多かった。けど、時代が違うよね。
今じゃ、残業すると仕事できない人みたいなイメージだし。

「呼び出されれば行きますけどね。ところで、クリスマスプレゼントは何にしたんですか」

さらっと聞かれた言葉に手を止めると、事務員の子達も興味津々に私を眺めていることに気がついた。

あなたたち、昨日はクリスマスイブだ~って、騒いでいたでしょ?

「……どうして、今日の私に聞くの」

「曜日的に。平日クリスマスより、終末クリスマスにする人の方が多いでしょう?」

そうだね……どちらかと言うと、うちもそうなんだよね。最初から“お泊まりクリスマス”を狙われているし。

せっかく忘れていたのに!

頭を抱えたら、部下たちがクスクス笑っていた。

「磯村さぁん、うちの主任をからかわないでください」

「でもデートは今日ですよねー? 今日は可愛い服装してましたもん」

あぁもう。うるさいよ君たち。
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