気になるパラドクス
正直言って、悩みましたよ。
今までプレゼントに悩んだことなんてなかったけど、こんなに考える人はいなかった。

学生の頃は、バックとか財布で良かったし、社会に出てからはネクタイがバリエーションにプラスされただけで、それでよかったんだけど……。

そもそも黒埼さんてバックとかこだわってないと思うし。

たまにトートバックにスケッチブック入れてるし、毎回持ってるの違うから、気分で決めてるんだろう感がマックス。

財布もきっとこだわってない、この間は財布出すのも面倒だったのか、ジーパンのポケットからお札が出てきていたわよ。だから、マネークリップも考えたけど、絶対に紛失されそうだ。
もちろんネクタイは論外。

結果として腕時計にした。

ミリタリー系の服装が多いから、それに合わせようか考えたけど、そんな簡単じゃなくて悩みに悩んだ。

スイスのクォーツウォッチだけど、ミリタリー系の時計のバンドはステンレス。ミリタリー系の時計って、プラスチックの物が多かったけど、これならたまにスーツを着ていても問題ないと……。

では、ないよ。

「……いいから仕事しなさい、仕事」

ブツブツ言ったら、笑いながら皆は仕事に戻った。

まったく。うちの営業部が和気あいあいとしているのはいいけど、こういう時は本当に困っちゃうな。

「後でお化粧し直してあげますか、主任」

ポツリと呟かれた部下の言葉に、軽く頷く。

「うん。お願いします」

そんな風に、誰かにとっては佳境で、誰かにとっては年末の和やかな雰囲気の一日が過ぎた。

ロッカールームで着替えている時、白いワンピースを着ている私に部下が眉をしかめている。

「うーん。主任。黒埼さんて可愛い好きじゃないんですか?」

「え。だめ?」

ちょっときれい目で来いとメールで連絡を受けたから、結婚式程とは言わないにしろそれなりの、レース素材の白ワンピースにしたんだけど……。

「ワンピースはともかく、ライダーブーツはないでしょう」

「……他のはヒール高いから、嫌」

「黒埼さんなら大丈夫ですから! ちゃんとコーディネートしないと、相手はデザイナーなんですよ?」

それはそうだけど。ブツブツ言ったり言われたりしながらも、なんとかデートファッションぽい形になっていく。

「……もう。原くんの時はこんなに盛り上がらなかったくせに、何だか面白がってない?」

「そんなことないですよー」

そんなことあると思うんだけど。
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