気になるパラドクス
船だよ船。しかも屋形船じゃなく、キラキラとライトアップされた……客船に見えるよ?

タクシーを降りて黒埼さんに手を引かれるままに歩き、タラップを渡ると、白と黒の制服を着た男の人に笑顔で迎えられる。

「お待ちしておりました。黒埼様に村居様」

村居様って呼ばれた!

そのまま船内に案内されて、コートをクロークに預けて……目を丸くして黒埼さんを見つめる。
ボーイさんに案内されて、つなぎっぱなしの手を引かれ、楽しそうに窓辺の席に座らされた。

「目、見開きすぎだから」

「だ、だって……あの……」

さすがに世界が違いすぎてビックリもするでしょう?

これっていわゆる“クリスマスクルージング”ってやつじゃない?
船に乗ってデートも初めてだけど、白いクロスのテーブルに置かれたナイフとフォークにめまいがした。
しかも“ディナークルーズ”ってやつじゃん。

「も、もっと庶民的でいいのに」

「大丈夫だ。俺はマナーとか気にしないから」

「そんな問題じゃ……」

言いかけたら、今度は黒い制服の男の人が近寄ってきて、グラスに炭酸水を注いでくれた。

「出港まで、しばしおくつろぎください」

くつろげるかー!

もう、見慣れない姿の黒埼さんはぶっ飛んで、まわりの環境に圧倒されそうですよ。

だって、ここはシックな白い壁に絨毯が敷いてある船内。
要所要所に飾られた柊とクリスマスリース。
BGMにはなんとピアノの生演奏。
ものすごく静かに動き回る、礼儀正しくきちんとした身なりのギャルソンたち。
ドレスアップしたカップルは、お互いにうっとりと窓の外を……。

外……。

「夜景……!」

広がる東京の夜景に気がついて、窓に近寄った。

「今さらかよ」

庶民に何を求めているのよ。

ちらっと振り返ると、微笑みながらグラスを傾けている黒埼さんがいて……。

ヤバイ。なんで森のクマさんのくせに、こんなに色気があるのよ。

「ごめん。我を忘れる前に、渡しちゃうね」

「は?」

口調はいつもの黒埼さんなのになー。
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