気になるパラドクス
「ますます面白そうな感じになりましたね。村居さん」

「どうしてこうなっちゃったのかな」

私、キラキラ婚活女子でもないんだけど。

しかも、黒埼さんには“彼と別れたばかり”だと暴露も……。
いや、それで弱っているところにつけ込むつもりで?

でも、その前からだよね、たぶん。

考えていたら、磯村くんに大きな溜め息を吐かれた。

「僕に探れとでも言うつもりですか」

「ううん。そんなもの人伝に聞いてどうするのよ。磯村くんは中立だから愚痴ってるだけ」

何とも言えない顔をされて、磯村くんは社食に向かい、私は私で仕事に戻った。

深く考えれば考えられないこともないけど、黒埼さんは結局は“お客様”だから、企画が終われば会うこともないだろうし。

真剣に考えても……ねぇ?

噛み砕いた変わりのミルクキャンディを、また口に放り込んで、口の中で転がしながら仕事を処理し始める。

一過性の風邪みたいなもんでしょ。

ちょっといつもより熱高いかなって感じで、ちょっと寝たらケロッと治るくらいの風邪。

そんなもんよ。

だいたい取り引き会社の人とつきあうなんて考えた事もないし。

よーし。からかわれても反応しないぞー。

パンパン頬を叩いたら、まわりにギョッとされたけど気にしなーい。

舞い込む仕事を捌きながら、お昼休憩にサンドイッチを買い込み、休憩室に向かう。

途中、自販機で何を飲むか迷っていたら、上からのしかかられた。

って、上から!?

思わず固まったら、耳元で笑われる。

「今から昼か?」

「……黒埼さん。気配を消して背後に立つのはやめませんか? さっきもビックリしたんですけど」

「うん。どうも村居さんの上擦った高い声も俺は好きみたいだ」

それはなんだか、いろいろと嫌なんだけど。

頭の上に乗せられた腕をどけて振り返ると、やっぱり黒埼さんがいて眉を下げた。
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