気になるパラドクス
「からかうのはやめて下さいね。また無視しますよー?」

「からかってるわけじゃないし。本気だしてもいいの?」

うん……?

「俺、結構人目憚らずいちゃつきたい人間だけど。それでいいなら」

真面目な表情を見て、首を傾げる。

普通の常識を考えると、そんな事を真面目に言う人はいないけど。
どちらかと言うと黒埼さんは常識の範疇外だから、どう解釈していいのか……。

いや、ここはひとまず逃げよう!

思った瞬間に抱き締められた。

「一歩遅かったな。村居さん、先に考えてから行動するから」

「そういう、問題じゃないし……っ」

力一杯引き剥がしたら、あっさり離れてくれた。

「ミーティング終わったんですか?」

「ミーティングは15時から。今日は暇だから来ただけ」

それはどうなんだろう。

「って言うのは冗談にしても、近所の店の様子見ついでに、磯村さんが今日は外回りでミーティング不参加だから、先にちょっと話に来てた」

苦笑する彼を横目で見つつ、ミルクティーを買う。

「デザイナーの人が、お店の様子見もするんですか?」

「うん……まぁ、一応自分の店だし」

どことなく不思議そうな黒埼さんに、私も不思議に思って首を傾げた。

「……村居さん、フロッグすてっぷって、俺の会社だって知ってる?」

うん。知ってるけど。だって、黒埼さんはフロッグすてっぷの人……。

ちょっと待って? 今なにかニュアンス違わなかった?

黒埼さん“俺の”会社って言った?

「俺の会社っ!?」

「あー……まぁ、俺のって言っても、元は親父の店だったわけで……しかも小さい会社だけど」

「いえ。ちょっと待って下さい。フロッグすてっぷって、けっこう手広く店舗展開してますよね? 元々がセレクトショップだったのは知ってますが、自社ブランドの家具も多いでしょ?」

黒埼さんが眉を上げ、それからじっと見つめ返される。

「……よく知ってるね。でも、元は手作り家具の店。それをセレクトショップにしただけだから」

ほー……。


実は黒埼さんて、社長さんなんだ。
全然、見えないけど。
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