気になるパラドクス
「黒埼さんて、白黒ハッキリさせたがる人なの?」

「今度、他の男が出てきても、キッパリ“俺が彼氏だ”って言いたいし」

原くんが、またしゃしゃり出てくるとは思わないけど。

彼はプライド高いし。
そのプライドのせいで、営業成績が振るわないんだけど。

どうしようか考えて、するりと黒埼さんの腕に腕を絡ませた。

無言でいたら、小さく笑われる。

「素直なんだか、そうじゃないんだか……」

「わけのわからない人に言われたくないわー」

「いや、だって俺って熊なんでしょ?」

軽く言われて、瞬きしながら彼を見上げる。

「離せ熊は驚いたよなー。俺ってそんなにのっそりしてないし」

クスクス笑いながらの黒埼さんはちょっぴり黒い。

それって、いつ言ったかな。確か、飲み会の時にかな?

「そんなことを覚えてたの?」

「独活の大木は言われたことがあるけど、熊は言われたことがない」

……彼の中で、どんな熊が想像されているかわからないけど。

なんとなーく“森のクマさん”的な、絵本のクマさん想像しているのは言わない方がよさそうだ。

絶対に笑われる。

「ところで、何を食いに行く?」

「あれ。決めてないんだ?」

「どっちに転ぶかわからなかったし。そもそもこの格好でお洒落なレストランとか予約してたらビビるだろ」

からかうように笑われて、黒埼さんの身なりを眺めた。

彼がお洒落なレストランやバーで、きちんとしたスーツを着て……。

「うん。似合わないかも」

「……そうか。そう言われると何か画策したくなるな」

「だって、スーツ着たらホストみたいじゃない。甘い感じのイケメンだし、背が高いし、ノリはいいし。筋肉質だけど……」

思わず組んでいた腕に触って、モミモミすると、やっぱりカチカチ。

「うわぁ~……」

呻くような声に顔を上げると、戸惑ったような顔をしていた。

「ヤバい。思っていた以上に天然だ」

……天然だなんて言われたことない。
でも、こんなことする女も確かにいないかもしれない。

顔を真っ赤にすると、爆笑された。

「よかった。けっこうお前もいちゃついても大丈夫そうだ」

「そんな事はないから!」

叫んだけれど、無視されて頭をグシャグシャにされる。

「髪! ちょ……っ」

慌てて離れようとしたら、ぐいっとコートの襟を捕まれて引き寄せられた。

「黒埼さ……」

言いかけた言葉は、重なった唇に吸いとられる。

……何て言うかさ。

近くにあった頬っぺたをつねると、離れた唇。

「い……ったいだろ」

「あんたには常識がないのか!」

「ない」

「断言するな!」

人通りも多い往来で、私の怒鳴り声と、黒埼さんの大爆笑が響き渡った。










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