気になるパラドクス
「原くんとは、けっこう前に別れてますし、時任さんはただの先輩ですし、黒埼さんと付き合い始めたのだけが事実ですね」

キッパリと言うと、塚原さんは虚をつかれたような顔をした。

「……あなたって、昔からからかいがいが無いわよねぇ」

塚原さんのからかいは、けっこう高確率で意地悪に発展するんだけどなー。

「なら、時任さん頂戴よ」

……まいった。悪ノリに発展した。

「先輩。私に向かって言うこと自体間違っています。私は時任さんと、仕事以外で会話すら、たまにしかないような関係性ですから」

「そうだったの? そのわりに昔から時任さんからお菓子もらっていたじゃない」

「……お洒落なお菓子なら、私にもわかりやすかったかもしれませんけどねぇ」

市販の板チョコやらミルクキャンディひと掴みを貰って、どうして好かれてると思えよう。どっちかって言うと可愛がられてるな、くらいにしか思わないよ。

ん……? と言うことは、やっぱり私は鈍いのか?

「時任さんて、きっと餌付けから始まるのよ。あなたがダメなら、次は誰を餌付け始めるのかしらねぇ」

どこかワクワクしている塚原さんに『おや?』と思う。

塚原さん、なんだか丸くなった?
昔だったら、誰かに色恋沙汰の噂があれば、それだけで般若みたいな顔をしていたのに。

私の違和感は皆の違和感でもあったらしい。後輩のほとんどが、不思議そうに塚原さんを見ていた。

その視線に気がついて、塚原さんがニヤリと笑うと左手をヒラヒラさせた。

その薬指を見て、皆いっせいに立ち上がる。

その指に、シンプルだけど眩しく輝く指輪がはまっていた。

「塚原さん! 誰とですか!」

「そんな噂は聞いたことないです」

キャーキャー言い始めた後輩たちに耳を塞ぎながら目を細める。

こーれは大変だ。磯村くんが部署内でプロポーズした時より派手だぞー、君たち。

「こら! 静かにしなさい!」

あまり騒ぐと部長に怒られるって!

それでも騒いでいる後輩たちに頭を抱えそうになったら……。

パァン!と何かが破裂する音がして、皆して立ち上がっている私の頭上を見上げた。
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