気になるパラドクス
今のって、大きな風船が割れるような音だった。

普通に仕事をしていれば、普通に聞こえるはずのない音。
聞き慣れない音って、どうしたことか反応しちゃうよね。

……でも“普通”なら、会社でこんなことをする人はまずいない……けど、なんとなくしそうな人に心当たりが有りすぎて、そろっと振り返る。

そこにはやっぱり楽しそうに笑っている黒埼さんがいて、思わず両手で顔を隠した。

「どうしてあなたは、気配を消して人の背後に立っているの」

「闘いを挑むなら正面からだが、獲物を狙うなら背後からだろ?」

……私は彼に“獲物”認定されているんだろうか?
それよりも、この人はいったい何に闘いを挑むつもりなの?

「とりあえず、みんな黙ったよ」

黒埼さんはちょいちょい塚原さんたちを指差し、確かに固まっている彼女たちに気がついた。

「お話は昼休憩にしましょう。塚原さんはご自分の部署に戻ってください。課長と部長に見つかると、ややこしい事になりますから」

「大丈夫よ、あのふたりは喫煙室でミーティングしてたから。ま、でもいいわ。また後でね」

またヒラヒラと手を振って、スタスタと去っていく彼女を見送る。

この分だと、私の噂は彼女の噂で書き換えられるかなー?
でも、幸せな噂より、嫌な噂の方が長続きするしなぁ。

それよりも……。

「黒埼さん。営業部に何かご用が?」

「うん。磯村さんどこ?」

マイペースにまわりを見回している彼に見て、頭を押さえた。

「磯村はミーティング中です。何時からお約束されていましたか?」

「約束ってほどでもないけど。クリスマスに向けてランチミーティングしようって言われてる」

ランチミーティング……。

呆れたと言うよりも、若干疲れた顔をしたら、背後から後輩たちのクスクス笑いが聞こえてくる。

今はまだ10時なんだけどね、黒埼さん。
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