気になるパラドクス
「……我が道突き進む人ですねぇ」

「デザイナーなんてそんなもんだろ」

「よく覚えておきます。ですが、彼らのミーティング終わるには、まだ1時間くらいあります。お見えになったことをお伝えしますね」

黒埼さんだって、1時間も暇にしてる訳にも行かないだろうし、一応、お客様だし、来たことくらいは伝えておかないと……。

「どこか座れるとこがあれば教えて下さい。2時間くらいは平気ですし」

何故か淡々と敬語で返されて、笑ってしまった。

でも、座るところ……かぁ。社食が空くのは11時からだし、今から会議室を借りるかな。

いや、でもランチミーティングにするなら会議室借りてもしょうがないし、自販機の前にベンチはあるけど、さすがに遊びに来ているわけじゃないから、そこへ案内する訳にも……。

応接室に通すか。

さて、誰に磯村くんに連絡してもらおうかな……後輩を振り返ると、オーケーマークが返ってきた。

「応接室Aにお願い」

内線を手に取った後輩に頷いてから、黒埼さんを振り返る。

「こちらへどうぞ」

営業部を出て、同じ階の応接室に案内すると、黒埼さんがどこかもの問いたげに私を見下ろした。

「もっと、ざっくりした場所で良かったのに……」

四畳半くらいの四角い部屋。壁紙は暖かみのある木目調。床は灰色のカーペット。そこに革張りのソファが4つに重厚なローテーブル。

急な来社のお客様にお待ちいただく部屋だもの、落ち着いた雰囲気なのは許してほしい。

「あなたは我が社のお客様なんだから、これくらいは仕方がないでしょう? なんとなく堅苦しいのは嫌いみたいだけど、それは我慢して」

「わかった」

わかってくれた瞬間に、いきなり三つ編みをほどかれた。

「……あ、あの?」

「これで我慢しておく」

くるくる両サイドの髪をねじって、また後ろでまとめられる。

「……黒埼さんは、髪を下ろしている方が好きなの?」

「うん。でもうなじにもそそられる」

真面目な表情で頷かれ、肩にかかるくるくる天パの髪を指に巻き付けて俯く。

そしてキスも好きだ……と。
男の人ってやっぱりエロいんだな。まぁ、女だってそれなりに嫌いじゃないんだろうけど……。

微かに笑う気配に、反射的にぱっと離れた。

「あ。バレたか」

「や。何をしようとしたのかわからなかったけど、今は仕事中だから」

黒埼さんは仕事中だろうが、あまり気にしないみたいだけど、私は多少気にするし。
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