気になるパラドクス
「……なんかごめん」

「謝られてもな?」

クスクス笑いながら、黒埼さんは離れていった。

何となく気恥ずかしくて、ちょっとだけ乱れた髪を直しながらまわりを見回す。

外見は倉庫に見えた。中も……たくさんの木材と、作りかけの家具と工具が無造作に置いてあって、雑然とした作業場に見える。

「……フロップすてっぷの家具って、手作りなの?」

黒埼さんはマグカップにお湯を注ぎながら、肩越しに振り返り微かに苦笑した。

「まさかだろ? 工場は別。試作品とかはここで作ることの方が多いけど、どちらかと言うと俺の作業場に近いかな。昔は親父の工場。ここでオーダーメイド家具作ってたから」

「へえぇ」

木の匂いに混じって甘い香りが漂ってきて、惹かれるように黒埼さんの方へ近づいていく。

「ほれ」

甘い香りいっぱいのココア入りマグカップを渡された。

このマグカップ、見覚えがあるかも。
これってこの前、敵情視察……に行った時に買ったマグカップじゃないかな?

「適当に座ってていいから、ちょっと待っててくれるか? 親父が来たから、ちょっと作業止まってて」

「あ。うん、いいよ。見ててもいい?」

「見てても面白くないと思うぞ?」

言いながら、やっぱりあの時に買った青いマグカップにココアを作り、それを持って奥の方にあるドアを開ける。

開けるとそこは、またもや異空間が広がっていた。

大きさは三畳より少し大きいくらいの狭い部屋。
シンプルな白壁には、たくさんのラフスケッチが貼られ、奥には製図用のデスクと、パソコンデスクやスキャナーなんかが鎮座しているけど……。

逆を見ると、居心地の良さそうなひとり掛けのソファに小さなテーブル。それがビックサイズのフロップとミリーのぬいぐるみに囲まれていて、なんだか楽しそう。

「座ってて」

「ありがとう」

ソファに座ると、思っていたよりクッションが効いていて、沈み込みそうになりながら慌てて体勢を立て直す。

ここはきっと“黒埼さんのお城”だな。

ココアをひと口飲んで、目が合ったミリーのぬいぐるみを眺める。

触るともふもふしてて気持ちいい。

ココアを小さなテーブルに置いて、ミリーのぬいぐるみを抱きしめて、もふもふ楽しんでいたら……。

「楽しそうだなー」

黒埼さんに、それこそ楽しそうに言われて顔を赤らめた。
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