気になるパラドクス
「言われた瞬間に思ったのは、俺とお前の子供なら、身長は高くなるだろうなーって事だったな。それも悪くないって思えたし」

わ、悪くないって言われてもね。
困ったなーとは思うし、少しついていけないんだけど。

今まで、そこまで言う人はいなかったし、きっと、そこまで思ってくれる人もいなかったよね。

嬉しい……けど、照れるから。
ぐいっと黒埼さんを押し退けて、スタスタと隣りを歩く。

「今日は無理。こんな格好でご挨拶なんて嫌。だいたいこの間も、とんでもない場面見られてるのに」

「まぁ、そう言うと思った。お前は見た目気にするもんなぁ」

当たり前です! セーターとジーパン姿で“ご挨拶”に行く女がどこにいると言うんだ。
黒埼さんに常識がないからって、私にまで常識がないとは限らないでしょ。

「で……?」

で……?

睫毛をパチパチさせると、次の言葉を待っているらしい黒埼さんを見上げる。

「美紅がらしくない行動する時って、何かあるんだと思ってるんだけど」

真面目な表情の彼に、真顔を返す。

それってどうなのよ?

「……さっきも言ったじゃない。彼女なら、デートに誘うのはおかしな事じゃないと思うんだけど」

「いや、おかしな事じゃないと思うけど、受け身の美紅が誘うのは、少しおかしな事だから。しかも、さっきは時任さんとやらに、俺は普通に喧嘩売られていたし」

……男の思考回路はわからないけど、もちろん、あれで喧嘩売られていると結論に至る、あなたも全然わからないけど。

「や。今日、部下のひとりに好きって言われて」

「はぁ?」

声が低くなって、不機嫌そうな顔をしたから、慌てて両手を振る。

「相手は女の子よ。普通に上司として好きだって言われたのよ」

たぶん……その意味だと思うけど。

「……そっからデートしようと思うのか?」

「うん。嬉しかったし。やっぱり好きって言われたら、嬉しいんだなー……と、思ったら、私は黒埼さんに何もしてないなー……とか思っちゃって」

なんとも言えず、複雑そうな表情に変わった黒埼さんを見ながら、微かにはにかんだ。

「だから、その……」

もじもじ指先をいじり始めると、困って俯いてしまう。
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