気になるパラドクス
「あああああ、もう恥ずかしいから! 恥ずか死ぬ~」

両手で顔を隠してしゃがみ込むと、ぶはっと遥か頭上で吹き出された。

「恥ずか死ぬってなんだよ。そこまで恥ずかしい事じゃないだろー」

「恥ずかしいわよ! 言ったこと無いんだから!」

「え……マジで?」

マジですよ! 黒埼さんが言うように、私は受け身の女なんだから。
告白されて付き合って、そしてフラれての繰り返しで……。

「あ。そっか……だから別れるのか」

付き合っていても、意思表示も何もしない人なんて嫌だよね。

少なくとも、好きだったら好きって、ちゃんと言わないといけないのに、私はそれを怠っていたかも。

ちょっとだけ顔を上げたら、目の前に黒埼さんもしゃがんでいて、驚いて瞬きした。

「美紅はそれでいいんだけど」

「え……あ、そ、そう?」

でも、それじゃいけない気がするよ?

「言ったじゃん。誰かから奪う手間が省けるって」

聞いた……かな。あまり覚えていないかも。
最初の頃の黒埼さんの言動は、けっこう聞き流して来ていたから、それとなく聞いているフリをして、聞いていなかったような気もするし。

「でも、嬉しいな。ちゃんと好きになってくれたの」

微笑みながらしみじみ言われて、真っ赤になりながら困る。

「嬉しい?」

「当たり前。美紅がそういう風に意思表示するのは、行き着くとこまで行ってからだと思っていたし」

行き着くとこまで行ってから?

立ち上がる黒埼さんを視線で追いながら、両脇を持たれて立たされた。

「とりあえず、今度の土曜に飯にしよう。親父が顔を見るのを楽しみにしてるし、真理も……いや、あいつはからかうのを楽しみにしてるが」

最後に冷たくボソリと呟かれて、苦笑する。

「こんな、早くに何もかも決めちゃって後悔しない?」

覗き込むと、自信満々に頷かれた。

「後悔ってのは、あとから考えるもんだ。だけど俺は案外大丈夫な気がしてるけどなー?」

気がするだけじゃ、ダメなんだけどね。
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