空蝉
「ねぇ、あんたまた背伸びた?」

「知らない。痩せたからそう見えるんじゃない?」

「あぁ、そうかも。何? ダイエットでもしてんの? 大変ねぇ、モデルってやつも」


ヨシキは笑みだけを返し、シートに背中を預けた。


隣の彼女は、かつては翔の恋人で、今は翔の腹違いの兄の恋人だ。

変わらないことより、変わったことの方が多い。



「エミちゃん。このまま一緒にホテルでも行っちゃわない?」


ヨシキの言葉にぽかんとしたエミは、



「嫌よ、私、あんたみたいな図体ばかり大きくなった泣き虫なんて」


真顔で言われ、思わず笑ってしまった。

ヨシキは「冗談だよ」と言いながら、



「ひとつ聞いてもいい?」

「何?」

「エミちゃん、今、ほんとは翔に対してどう思ってる?」


今も罪悪感があると言ってほしいのかもしれない。

あの頃と同じよ、私もまだ抜け出せないの、と。


でも、エミははっきりと言った。



「あのね、私は翔に愛想を尽かしたから別れたし、翔もそれをちゃんとわかってる。で、私は今、充が好きだから充と付き合ってるの。充を翔の代わりだなんて思ったことは一度もない。だから、翔をどう思ってるかで言えば、何とも思ってないわ」

「どうやったらそんなに割り切れるの?」

「私はあんたみたいに自分や過去と向き合うことから逃げてないからよ」


ぐさりと突き刺さった。



タクシーはマンションの前に停車した。


金を払ったエミは、「ほら、早く降りなさい」と、ヨシキの腕を引っ張った。

ヨシキがよろけながらタクシーを降りると、エミは「ほんとに困った子ね」と言った。

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