空蝉
「私、この前、本屋に行ったんです。そこで雑誌を見ている高校生の女の子たちの会話を聞きました」


いきなり何の話なのかと思った。

首をかしげるヨシキに、電話口の向こうの美雨は息巻いたように、



「あなたが載ってる雑誌に目を輝かせながら、興奮したように、『私もう、ヨシキを見つけることが生きがいだよ』って言ってました」

「………」

「その子の言い方は、確かに大袈裟なのかもしれません。でも、あなたがやってることは、どんなに小さくても、誰かの希望になってます」

「………」

「えっと。最後にそれだけは言っておきたかったので。すみません」


最初は地元から逃げられるなら何でもよかった。

でも、やってきたことは無駄じゃなかった。



「ありがとう。すごく勇気をもらった」


誰かに望まれていることの奇跡を想う。



「俺たち、またいつか、どこかで会えるといいね」

「きっと会えますよ。お互いが生きてる限り、可能性はゼロじゃありませんから」

「そうだね」


電話を切り、ヨシキは笑った。

笑っているはずなのに、目頭が熱くなる。


嬉し涙なんて、いつぶりか。



ソファでぼうっと宙を見上げていたら、また携帯が鳴った。



間抜けなメロディー。


息を吐いてそれを持ち上げ、ディスプレイを確認してみると、【翔】の文字が。

ヨシキは「わっ!」と驚きながら、通話ボタンを押した。



「な、何? どうしたの? 翔から電話してくるなんて、何かあった?」

「別に俺だって用がある時くらい電話すんだろ」

「あ、うん。そうだよね。ごめん」
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