空蝉
正直、あの日、仲直りみたいなことをしたとはいえ、翔とはまだちょっと、ギクシャクしていた。

普段、会うことがないから、気恥かしさもあるのかもしれないが。


5年もの時間は、そう簡単に埋まるわけではないのかもしれない。



「で、用って?」

「あー、そうそう。春にそっちに行くって言ったじゃん? あれ、アユと話して4月の頭にしようと思って。お前、いつ空いてる?」

「4月の頭かぁ。どうかな」

「アユの卒業式が終わってから行こうと思ってんだけど」

「卒業式? ……何の?」

「高校の」

「えっ! 翔のカノジョって高校生だったの?!」


驚き過ぎて、思わず大きな声が出た。

その所為で、ヨシキはむせてげほげほと咳き込んでしまう。



「何? 何か文句あんの?」

「文句っていうか……」


『アユ』はどうやら、生きていたら真理と同い年らしい。

ヨシキは脱力した。



「今、急にすべてが馬鹿馬鹿しくなった」

「あ?」

「翔、昔言ったよね? 俺のこと変態オヤジみたいに言った。それなのに、自分だって同じじゃないか」

「待て。お前が何言ってんのか全然わかんねぇんだけど」

「つまり、翔も同じってことは、俺は変態オヤジじゃない。そうでしょ? そうだよね?」

「おい。聞けよ、俺の話」

「ひどいよ、翔。俺はあの時、どれだけ苦しんだと思ってるの? だからずっと内緒にしてたのに」

「いや、お前、またぶっ飛んでんじゃねぇの? 会話になってねぇし。切るわ」

「ちょっと! 俺はもうハーブなんて」


なのに、直後、ぶつりと通話が遮断された。


ふてくされたヨシキはそのまま携帯を放り投げた。

だけど、次にはひどくおかしくなって、噴き出したように笑ってしまった。

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