十八歳の花嫁
「いや、こちらこそ悪かったね。で、用件は……こういうことかい?」
何事もなかった態度で、藤臣は愛実に語りかける。
愛実自身も何と言っていいのかわからず、ごく自然に笑みを浮かべうなずいた。
そんなふたりの様子に怒りのやり場を失ったのが和威だ。
彼は信じられない、といった顔で愛実に噛み付く。
「愛実さん! 君はさっきの格好を見ても平気なのか!? それだけじゃない。彼が女性と一緒だと知りながら、なぜ怒らないんだっ!」
和威の言うこともわからないではない。
多分、普通の婚約者であればさっきの半裸を見ただけで泣き出しているかもしれない。
でも、愛実にはそんな資格はないのだ。
藤臣に助けられ、家族の生活すら彼の心ひとつにかかっている。
信一郎や宏志とは結婚したくない。
和威なら、愛実が望めば家族のことも助けてくれるかもしれない。
だが……。
藤臣のどんな姿を見ても、ただ切ないだけで嫌いになどなれない。
その都度、愛実は対象外なのだ、と思い知らされるだけだった。
「和威、そう興奮するな。秘書と一緒で何が問題なんだ?」
黙り込む愛実に代わって、軽い口調で藤臣が言い訳を始める。
しかしそんな態度すら、潔癖な和威の癇に障ったようだ。
「これまでの生き方をあらため、愛実さんに結婚を申し込む。――そう言ったはずだ。それを……まだ、こんな女と。少しは恥を知ったらどうだ!」
「おまえは道徳の講義に来たのか? どうあっても、真昼の情事と決めつけてるが」
「そのとおりだろう? 隣の寝室には、乱れたシーツと使用済みのコンドームがあるんじゃないのか!?」
怒りに任せて和威は叫んだ。
愛実は唖然としたが、その内容に頬が熱くなる。
「言葉遣いに気をつけなさい。彼女の前だ」
あくまで冷静な藤臣の注意に、今度は和威のほうが赤面して愛実に頭を下げた。
「すみません。変な言い方をしてしまって」
愛実は即座に「いえ。気にしないでください」と言葉を返す。