十八歳の花嫁
「わかりました。助けていただいてありがとうございました。でも、祖父が生前どんなお約束をしたにせよ、わたしには関係のないことですから」
「関係はある。君もきっと、結婚を承諾する気になる」
「そんな……愛し合ってもいないのに、結婚なんて」
「愛し合ってもいない男に、抱かれようとしたのはどこの誰だ?」
「それは……お金が、必要だったんです。だから」
父は子供たちに保険金を残してくれた。
だがそのお金は、半分以上が祖母の介護付き有料老人ホームの入居費用に消えたのである。
祖母は現在、六十七歳。入居時に委託金として五年分の費用を支払った。三年後、月々の費用を払えなくなれば、祖母は帰されてしまう。
そのとき、母に介護ができるだろうか?
愛実が介護に回れば、働き手がいなくなる。
将来のことを考えれば、愛実にはどうしたらいいのかわからない。
それでも、祖母は大切な人だ。華やかに装い、出歩くことが好きな母に代わり、愛実をはじめ弟妹の面倒を見てくれた。
今となっては、老いと病で孫たちの区別もつかない。だが、例えどんな思いをしても、愛実には見捨てることなどできなかった。
(この人に、そんな話をしても仕方ないわ)
愛実は左手の薬指から指輪を外し、コトッとテーブルの上に置く。
「これはお返しします」
押し出すような声でそう言い、愛実は出て行こうとした。
そのときだ。
バサッという音と共に、指輪の横に札束が置かれた。
「とりあえず、五十万ある。小切手より現金がいいだろう?」
「意味がわかりません」
「手付金とでも言っておこうか。金が必要なんだろう? 但し、売るのは君の処女ではない。――短ければ数ヶ月、長くとも二~三年。君の時間を買おう。いくらだ?」
それは、道端で身体の値段を聞かれたときより、屈辱的な言葉だった。
だが、目の前に置かれた札束にも心が揺れそうになる。
何より切ないのは……警察に踏み込まれる直前、美馬のことを運命の男性のように感じたことだろう。
だが彼は、答えを出さない愛実に苛つき始め……。
「何を考える必要がある? 君は一晩十万だったな。それで買ってやる。三年も経てばざっと一億だ。普通の売春でそこまで稼げると思うか? 女子高生にもわかる簡単な計算だろう」
「嫌です! おじい様たちの愛情をお金に替えて、踏みにじるような真似はできません。どれだけお金を積まれても、心までは売れません!」