十八歳の花嫁

彼は当然、信一郎に全治三ヶ月の重傷を負わせたのが藤臣だと知っている。

しかも、『ウブなお嬢さんには気の毒だが、これもいい勉強』そんな台詞を平然と言ってのけた男だ。
愛実は何も知らず、鬼のような男に向かって笑顔を大盤振る舞いしている。


(俺だけに向ける笑顔じゃなかったのか!?)


見ているだけで、藤臣は胃の辺りが焼け付くように痛くなった。


「なぁに? 旧華族の出身で、世が世ならお姫様ってあなた? でも、今は落ちぶれてアパート暮らしなんでしょう? お気の毒ね。その歳でお金のために結婚しなきゃならないなんて。しかも相手が売春婦の息子なんて、ホーントお気の毒」


暁の後ろからやって来て、いきなり愛実に噛み付いたのは加奈子の長女、安西朋美(あんざいともみ)だった。

彼女は藤臣と同じ年齢で、七年前に大病院の後継ぎと結婚。五歳の息子と三歳の娘がいる。
朋美は母親には似ておらず、男を誘う厚い唇と退廃的なボディラインの持ち主だった。兄弟同様、父親が信二かどうかは疑問だという噂だ。


「朋美さん、もう酔ってるのかい? しょうがないなぁ」


シャンパングラスを片手に、朋美は暁にしな垂れかかる。
佐和子は顔を背け、弘明は一瞬だけ顔を顰めた。


「あら、あたしは本当のことを言っただけよ。ま、我が家の男はみーんな似たり寄ったりだから、誰を選んでも同じでしょうけど」


そう言うと朋美は甲高い声で笑った。


「愛実、加奈子さんのお嬢さんで安西朋美さんだ。ご結婚されてこの家を出られたので」

「おじい様が死んだから、別れて戻って来るかもね。そのときは仲よくしてちょうだいね、お・ひ・め・さ・ま」


愛実は彼女らしく、酔っ払い同然の朋美にも礼儀正しく挨拶をしようとした。
だがその前に、朋美自身によって遮られてしまい……。

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