十八歳の花嫁

ふたりの関係は知っていた。

藤臣が養子になって間がないころのことだ。暁も邸内に住んでおり、このふたりは夜な夜な密会を重ねていた。
当時の暁は藤臣の隣の部屋で、嫌でも目に……いや、耳に入って来た。
暁の父・弘明もやがて気づき、すぐに息子を邸から追い出した。

だがふたりはその後も関係を続け、朋美の家出と同時に妊娠が発覚。
そして、とうとう祖父・一志の耳にも入ってしまい……。


キスまではまだ許せる。
藤臣も苛立ちながら、さっさと出て行ってくれることを願った。

だがまさか、こんな場所で朋美が口で始めるとは……。

さすがの藤臣も面食らった。
こんなことなら、暁ひとりのときに出て行けばよかった。だが、こうなってしまってからでは甚だ顔を合わせづらい。

ドア越しに聞こえるジッパーを下ろす音や衣擦れの音、そして暁の小さな呻き声に藤臣の頭は切れそうになる。

しかも、


「藤臣さん……急に静かになりましたけど」


愛実には行われていることがわからないのだろう。

話し声が聞こえなくなると、背伸びをして藤臣の耳に口を寄せた。


(……ま、まずい)


愛実は今日のドレスに合わせ、薄っすらと化粧をしている。
つけなくても桜色に艶めいて見える唇だ。そこが今日はルージュのせいで妙に色っぽい。

愛実の前では懸命に抑えている欲望が、背後から聞こえる情交の気配に後押しされ、微妙にエレクトする。

だが、今さら愛実を突き放すわけにもいかない。

彼が苦悩のあまり返事もできずにいると、愛実はさらに身体を寄せた。


「あの……聞こえませんでした? もう、出ても平気でしょうか?」


――こんな場所で欲情していることだけは、死んでも知られるわけにはいかない。

彼は限界まで腰を引きつつ、「今は、まだ……だめだ」とどうにか答える。


その直後だった。

朋美のあからさまな喘ぎ声が聞こえ――さらには、激しく肌のぶつかる音が、個室にまで届いたのである。

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