十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


「恭子は俺との結婚を望んでるわけじゃない。十年も隠し通したんだ。むしろ、よほど俺が嫌いなんだろう――」


藤臣はそう思いたかった。


「最近の和威は、今ひとつ仕事に熱心とは言い難い。あんな状態の男に愛実は託せない。瀬崎、あと二ヶ月半だ。九月一日付けで俺の社長就任が決定する。そこまで、何としてもマスコミを黙らせ、婆さんを押さえ込むんだ!」


恭子に弥生がコンタクトを取ればおしまいだ、という瀬崎を説得し、時間稼ぎの策を取らせている。

だが、瀬崎の様子がこれまでとは微妙に違う。もし、彼に見放されたのだとしたら……。
そのときは、最後の味方をも失ったことになる。
藤臣にはそれが恐ろしかった。


そして昨晩、弥生は夕食の席で愚痴とも嫌みとも取れる言葉を呟き始めた。


「週刊誌に何やら騒がれていた女は、藤臣さんが十年前に結婚したいと言った女でしょう? なんて迷惑な方かしら。美馬家にあれほどの恥を掻かせながら……今さら」


食卓を囲んでいた加奈子も、久しぶりに母親に迎合する。


「あら、責任は藤臣さんにあるんじゃないかしら? あの女をデパートの人事部に雇うよう、口を利かれたのは藤臣さんご本人とか……」

「まあまあ、彼はまだ独身なんだ。どんな女性と付き合おうとも、彼の自由だよ。ただ、結婚するならケリはつけないとね」


加奈子の隣にいた夫の信二までもが口を挟んだ。

この信二が東部デパート内の情報に精通しているのには理由があった。つい先日、東部デパートの社長秘書、浅野めぐみが信二の愛人だと判明したのだ。

彼女を社長秘書に登用する前、徹底的に調べたはずだった。
しかし、登用後の関係までは予測できない。浅野には結婚間近の恋人がいて、既婚者になることを見越しての昇進だった。
それが相手の借金と浮気で破談になり……信二との関係は金銭的な問題も大きいようだ。

しかし、道理で筒抜けになるはずである。
秋の移動で秘書を変えねばならない。藤臣はそう考えていた。


「どちらにしても、さっさと系列会社から追い払いなさい。子供の父親が誰だろうと関係ないでしょう。馬鹿な女に関わってこれ以上美馬の名前に傷をつけるようなら、わたくしにも考えがありますよ」


弥生の言葉に答えることなく、深く思いに沈む藤臣だった。

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