十八歳の花嫁

エレベーターが四階に止まり、愛実は廊下を進む。
まだ昼の三時を回ったころなので、藤臣は仕事中だろう。こちらでは朝早く出勤し、夕方五時には家に戻る日々だと言っていた。


(部屋を掃除して、晩御飯の用意をして……いきなり『お帰りなさい』って出迎えたら、なんて言うかしら?)


エレベーターから一番遠い四〇一号室。表札はないけれど、その部屋に間違いない。
愛実はウキウキした気分で鍵を取り出し、玄関を開けた。


なぜか……室内は暖かかった。
テレビの音だろうか、人の話し声も聞こえる。愛実は玄関に立ったまま、上がるかどうか迷っていた。

ところが次の瞬間、目の前のドアが開いたのだ。
愛実の記憶に間違いがなければ、そこはバスルームだったと思う。

中から、バスタオルを巻いただけの女性が出てきて……。


「ちょっと、何? あんた誰よ! なんで勝手に入ってくるのよっ」


彼女は驚いたような声をあげ、すぐに怒りを露わにした。

立っているのが見知らぬ男性なら、彼女も大声をあげたのだろう。
でも、愛実はこのとき、ちょうど卒業したばかりの高校指定のコートを着ていた。女性の目には、市内の女子高生に見えたのかもしれない。


「あ、あの、すみません! 美馬藤臣さんの部屋だと思って」


部屋を間違えたのだと思い、愛実はとっさに謝った。

しかし、落ちついて考えてみれば、玄関はスペアキーで開いた。
それは、ここが間違いなく“藤臣の部屋”ということで……。


「あっ! あの、あなたって、ひょっとして?」

「美馬……愛実と言います。あの、こちらにお住まいの藤臣さんは」

「あ、あの、えっと……なんて説明したらいいのかしら……えーっと、ね」


女性は妙にうろたえており、まるで言葉になっていない。
愛実はしだいに胸の鼓動が早くなる。


(嘘よ。こんな……藤臣さんに限って。こんなこと)


女性の出てきたバスルームから、シャワーの音が聞こえた。
それは彼女がひとりでバスルームを使っていたわけではなく、ほかの誰かと……。

愛実はそのまま外に飛び出した。

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