十八歳の花嫁

背後から女性の「ちょっと待って!」という声が聞こえる。

肌が白くて背の高い、スタイルのいい女性だった。おそらく、二十代前半といった辺りか。しっかりとは見なかったが、藤臣と交際のあったモデルの女性に似ていた気もする。

四階に止まったままだったエレベーターに飛び乗り、一階のボタンを押した。
驚き過ぎて、涙も出てこない。このまま逃げ出してどこに行くつもりなのか……自分でもよくわからなかった。


――ポーン。


軽快な音がしてエレベーターは一階に到着した。
愛実がエレベーターの外に一歩踏み出した瞬間、エントランスホールのガラス扉が開いた。
凍えるような風が吹き込んできて、愛実は顔を伏せる。

そのときだ。


「愛実! よかった。行き違いにならなくて」


入ってきたのは黒いコートを着た男性。
それは、愛実が愛してやまない夫――藤臣だ。

彼は満面の笑みで愛実の手を取り、彼女の抱えた荷物を持つ。


「寒かっただろう? そろそろ大きな荷物を送ったほうがいいんじゃないかと思って、新しい住所を連絡したんだ。そうしたら、君がこっちに向かったと聞いてびっくりしたよ」


マンションの外に、見たことのあるオフロード車が停まっている。
以前は最高級のドイツ車、それもスポーツカーに乗っていたが、その車は処分して今は国産車だ。こちらに引っ越したとき、愛実と一緒に中古車センターで選んだ車だった。

間違いなく、藤臣はここにいる。

たった今、車に乗って駆けつけてきてくれたのだ。そう思うと、愛実は冷えて固まった心が溶けだしてしまい……。


「藤臣さん……藤臣さん」 


ほかには何も思いつかない。

愛実はただ藤臣に抱きつき、彼の名前を呼びながら、泣き続けたのだった。

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