十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


弥生の本命が和威であることくらい、信一郎も察していた。

信一郎にとって藤臣は邪魔者に他ならない。彼が邸に来た十五年前から、祖父・一志に散々比べられてはできが悪いと罵られてきた。

だが、所詮デキレースなのだ。
勝者の決まったレースに引き摺り出されるほど苦痛なことはない。

その一志が亡くなり、ホッとした矢先に今度は弥生だ。
弥生は手塩にかけて育てた和威が可愛くて仕方がないのだろう。その和威に美馬家を継がせるため、わざわざ『結婚を誓った男性の孫娘に財産を譲る』、などという茶番を仕組んだに違いない。


(ま、おかげでこっちにもチャンスが回ってきたけどな)


一志亡き今、長女の長男である自分が後継者となるのに最も相応しい。
そのために、この娘を利用する。

それは信一郎にとって、当然の権利だと思っていた。


藤臣の写真をみつめ、呆然とする愛実にソフトドリンクを勧めた。
オレンジジュースにシロップとワインを混ぜ、炭酸で割ったワイン・クーラーだ。ワインの量を極力抑え、即効性の睡眠導入剤を混ぜた。
それは信一郎が普段からよく使う手段だった。

お目当ての女性をごく普通のレストランに誘う。
アルコールに慣れた女性相手の場合、非合法の催淫剤を使うこともある。効き目は個人差があるが、大概は乱れに乱れて信一郎を楽しませてくれること請け合いだ。
後日、記念のDVDを進呈すると、その先は信一郎が飽きるまで言いなりにできる。


(この娘もさっさと犯(や)って孕ましてしまおう。そうなれば、四の五の言わずに結婚するさ)


ふらつく愛実を車に乗せながら、信一郎の凶悪な本性が爪を研ぎ始めた。

弥生がどれほど長生きしても後五年。
愛実が財産さえ相続すれば、すぐに自分の名義に書き換える。
その後、子供は信一郎の子じゃない、と偽の証明書を医者に書かせればいい。金を積めばなんでもする医者は大勢いる。そうなれば離婚も簡単だ。子供に相続権はなくなり、養育費も払わずに済む。


(こんな血縁でもない小娘に、一円だってくれてやるもんか!)


信一郎の車はどんどん都心から離れて行く。夜の街を三十分以上走り、車は郊外のモーテルに滑り込んだ。
部屋は一棟ずつ離れて建っていた。
フロントを通らずに済み、車を建物に横付けできる。ぐったりした娘を連れ込むのに大した距離を歩く必要もない。
叫び声が届く心配もなく――女を犯すには最適な場所だった。


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