十八歳の花嫁

第11話 姦心

第11話 姦心





『見失った、だと!?』


夜の九時、飛行機は東京国際空港に到着した。
連れはおらず、藤臣は最後の税関検査を抜け外に出る。

久美子は彼女の希望で九龍半島に残してきた。愛人(パトロン)の藤臣が消えれば彼女のことだ、現地の男とよろしくやるだろう。

ターミナル前に立った直後、電源を入れたばかりの携帯に着信が入った。


『申し訳ありません。深夜工事のため、道路が規制中でして……』


瀬崎は彼らしくない慌てた様子で、電話口で叫んでいる。

藤臣の不在中、信一郎と和威の動向には充分に気を配るよう命じて日本を出発した。
和威はともかく、信一郎には特に注意するよう言ったのだ。あの男は前科こそないものの、それに匹敵する無法を繰り返している。

それが、信一郎の車を追跡していたとき、交通規制にかかって眼前でストップを喰らったという。
しかし、場所は成城の西園寺邸に向かう道。
瀬崎は、そのまま自宅に送り届けるもの、と思ったらしい。
逸る気持ちを抑え、瀬崎が西園寺邸に到着したとき、信一郎の車は影も形もなく、当然、愛実の姿もなかった。


『馬鹿野郎! なんのための尾行だ!』

『……お詫びの言葉もありません。信一郎様の携帯にかけるんですが、電源を切っておられるようです。私はこのまま警察に』

『警察がなんの役に立つ? 被害者がいなければ動かんし、愛実がやられてからじゃ遅いんだっ!』

『では、どうすれば……』


藤臣がターミナルを出たタイミングを見計らい、目の前にポルシェが横付けされた。

運転手付きのリムジンが苦手な彼は、大体において自分で運転する。空港にも自分の運転で来て、高級車専用の空港駐車場に預けるというサービスを利用していた。
ターミナル前で車両を受け取れるのは、上客だけの特別サービスだ。
いつものスタッフが愛想笑いを浮かべ、揉み手せんばかりに藤臣を出迎えたが……。


『成城より西にある奴がいつも利用するモーテルを探せ! 五軒もないはずだ。グズグズするなっ!』

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