十八歳の花嫁

藤臣の怒声に駐車場スタッフは顔を引き攣らせ固まった。

書類にサインをし、チップを押し付けるようにして運転席に乗り込んだ。
そのまま、怒りに任せてアクセルを踏み込む。白のポルシェは残像を残し、あっという間に走り去ったのだった。


(なんて馬鹿な娘だ! あれほど忠告してやったのに、よりにもよって信一郎とふたりきりで会うなど……最悪だ!)


和威には「財産はおまえにやるから、愛実には手を出さないでくれ」と告げた。
素直な和威は、藤臣の言葉に感動し、愛実には近づかないと約束したのだ。

宏志は論外だろう。
仮に何かを企んでも、奴に実行できる性根はない。遠くから吼えるくらいが精々である。

しかし、信一郎は違う。
一志の腐った根性と、弥生の冷酷さを受け継いだ、まさしく美馬家の人間だ。


そのとき、ふと頭を掠めた。
“腐った根性”なら藤臣も引けは取らない。信一郎に愛実を犯させればいいじゃないか、と。

居場所を見つけてもすぐには踏み込まず、コトが済むまで静観する。
時間が経てば、愛実は奴に説得されるかもしれないが、レイプされた直後なら別だろう。現場で犯罪の証拠を押さえれば、信一郎とて逆らえまい。
間に合わなかったとはいえ、事後のフォローに誠意を見せれば、傷ついた愛実は藤臣の言いなりになる……。

そこまで考えたとき、彼の脳裏に浮かんだのは、愛実の笑顔だった。


――ありがとうございます。


マッチポンプさながら、愛実をラブホテルに連れ込み、警察に通報したのは藤臣だ。
後日調査されても、ふたりの関係が以前からだと、あの場にいた警官たちが証言してくれるだろう。
愛実を追い詰めるだけじゃなく、彼にはそんな思惑もあった。

なのに、愛実は礼を言い、逆に藤臣を気遣った。

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