勇気を出して、空を見上げて。
「まあ、ね。家帰ってもどうしようもないの、星は知ってるから」
「……仲、良いんですね」
間が開いたのは、あたしが少し踏み込んだことを言ったからだろうか。
本当は、仲が良い、で括れるような関係ではないのだけれど、あたしはそこには触れずにまあね、と頷いた。
言うべきじゃないと思ったから。この子には。知らないなら、知らないままでいい。
元々きっとあたしたちに近いところにいるこの子を、知ることで、知らせてしまうことでこちらに引き込んではいけないと思った。
「でも、二人のところにいるなら安心ですかね」
「心音ちゃん流石おかんだよね」
「伊達に中一から言われてませんって。ちゃんとご飯も食べてるんですよね?」
「あ、うん。星もユズも作ってくれるから」
食生活はちゃんとしてるはず。量は少ないけど。
胃がなれていないから、通常量が中々食べられない。星は勿論、深く踏み込んでこないユズもそこは分かってくれているから、量を食えとは言ってこなかった。
ユズも、こっち側なんだろうな、と。
数日間一緒に過ごして抱いたのは、その考え。それをきっと分かったから、星もルームシェアすることに決めたんだろうなって思う。
真湖ちゃんもユズに懐いてるってことは、きっとそういうことだ。
最初、ルームシェアするって聞いた時は理解できなかったし、何人かは捨てたんだって言っていたやつもいたけど。寧ろルームシェアを始めた星は前よりも頻繁に顔を出してくれていて。
残ったのは、知らない人と一緒に生活することを決めた、理解のできなさ。
だって、あたしだったらきっと無理。今まで全然違う生活をしていたひとと、どうしたら一緒に暮らせるのか。それに、自分の身体を見られてしまうかもしれないのに、一緒になんてとても住めない。
でも、今なら少しわかる気がする。だって、ユズだから。それは多分、言葉にはできなくても何となく理解できる感覚だ。
と、そうだった。そういえばそのユズから、連絡先交換してあげてって言われてたんだっけ。
「そうだ、LINE交換しよう心音ちゃん」
「あ、すみません私ガラケーで」
「あー、じゃあメルアドとケー番かな」
「お、お願いします……」
「何でそんなに緊張してんの」
くすり、と笑うとつられたのか心音ちゃんも笑う。つられたというより愛想笑いっぽいと、感じた。
────この子は。
ユズはきっと気付いてる。星も多分、気付いてる。
あたしだって、何となくは気付いていた。