勇気を出して、空を見上げて。
似ている、だけで済めばいいけれど。
『でしょう? まあ、会うのは会うでいいんですけど』
最後に一言フォローを入れて、携帯を閉じた。一時だ、そろそろさっちーを起こさないと。
ゆらゆらとさっちーを揺すって、眠いと駄々を捏ねる彼女を叱咤しつつリュックの中から教科書とノートを探し出す。次は移動教室だ。早めに動かねば。
「さっちー頑張ってほら」
「んんーねむい……寝なきゃよかった……」
「ほら数学だよー教科書とノートはー?」
「もったぁ」
「さっちーめっちゃ眠そうなんだけど」
「さっきまで寝てたんだよね。ほらさっちー詩月が行くってよ」
「うちも行くから!」
「ハナちゃんも行くってよ」
「んーいくー」
「子供か」
四人でわちゃわちゃしながら移動。メールが来たことには気付いたけど、返事はあとでいいやとそのまま放置する。
ちょっとだけ、返事が怖いと思ってしまったから。
会わなくても話はできる。ネットで知り合った一人には、結構色々な話もしている。それは直接の知り合いではないからこそできる話で、『おかん』の私を知らないからこそできた話で。
確かに、柚都さんは『おかん』の私を直接知っているわけではない。だから、話せないこともない、のかもしれない。
だけど、やっぱり躊躇ってしまうのにはきっと理由があるのだろうと思う。自分でもまだ掴めていないのだけれど。
返事が怖いのは、多分直接彼を知っているからだ。
一度顔が見えると、どうしても気にしてしまう。否、見えなくても気にはなるのだが、見えると余計に。
何がって、私が投げた言葉に対してどう思っているか、だ。
どんな言葉を選んだって、どうしても気にする。気になってしまう。引かれていないか、怒っていないか、嫌われないか。いつだって、誰が相手だって。仲の良さなんて関係ない。だって、────だって。
誰かに嫌われることが、私は多分。
大丈夫だと思っていたのに、当時は大丈夫だったのに。今になってこうして拗れるなんて、めんどくさいなあ自分、と思う。だから、必死で違うと打ち消して。今もその最中だ。完全に打ち消せる日が来るかは分からない、けれど。
苦しいのなんて嘘。辛いのも気のせい。
大丈夫、やれるから、ほら、なんて。
「ああああおかんどうしようノート間違えた! 国語持ってきた!」
「何でそこ間違えた! もうほらルーズリーフ!」
「ありがとおおおお」
さっちーのヘルプに瞬時に意識を戻す。袋ごとルーズリーフを渡して、その背中を押す。
こういう瞬間だって。私は考える。
名前があるからこそ、関係を変えたくないがためにそうしているのかもしれないと。
ふと考えたことには蓋をして。チャイムが鳴ると同時に入ってきた先生に、私は頭を授業へ切り替えた。

