勇気を出して、空を見上げて。

あの体験をなかったことにして生きていくなんて出来ないくらい、あの体験は根強く俺の中に生きている。


普通になんて、今更なれない。


なかったことにするのも、普通に生きていくのも、俺にはできない。


それが母さんや父さんの願いだったとしても。


どう頑張っても俺は普通に離れなくて、寧ろ頑張れば頑張るほど普通とはかけ離れていって。


あの体験をする前、自分がどんなふうに生きて来たのかなんてとっくのとうに忘れた。


だって、覚えてなんていたら俺はきっとここにはいない。


今だって、俺のことを心配してくれる二人を疑ってしまうんだから。


本当は、自分が思い出したくないだけなんじゃないかって。


「俺ね、助けたいの。俺みたいな体験した子を。だからごめん、」


二人の願いは叶えられないよ。


「ごめんね、母さん」


ごめん、ごめんね。


俺、昔からずっと迷惑かけてばっかりだ。


「謝るくらいならやめてよ……」

「うん。でも、それはできない」

「ゆずとぉ……」


ぱたぱた、ぱたぱた。


段々早くなっていく音から、俺は視線を逸らす。


「今すぐ分かってくれなくてもいい。いつか分かってくれればいい。でも俺はこの道は曲げないし、志望校ももう決めてある。譲るつもりは、ないから。これは俺の問題だから」


その言葉が決定打。更に泣き出した母さんの背中を、父さんが優しく撫でた。


突き放した。わざと。


俺だって、いつまでも子供じゃない。


色々、考えてるんだ。


普通じゃなくたっていいんじゃないかって。戻らなくてもいいんじゃないかって。


普通じゃないなら、普通じゃないなりに。


戻れないなら、戻れないなりに。


きっと何かしら、あの体験をした俺にしかできないことがあるって。


そう思ってる。


いつまでも、逃げてはいられない。


だから、俺は探してる。


「柚都は、それで後悔しないのか?」

「……そんなの分からないよ。後悔しないかなんて今分からない」

「……それもそうか」


初めて発言した父さんに素直な気持ちを話した。


それを受け入れて納得した父さんに、少しだけ驚く。


母さん程じゃなくても、父さんだって賛成したいわけじゃないはずなのに。


「俺だって、本当はやめてほしいよ」

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