勇気を出して、空を見上げて。
ほら。
分かってはいたから、何も答えずにその言葉を受け止めた。でも流石に痛い。
「ごめんな、柚都。俺達がもっとしっかりしてれば、」
「今更掘り返さないでよそれ」
故意的に続きを遮った。それを父さんも分かって、唇に薄く笑みを乗せる。
「それも、そうだな」
その言葉は、二回目だ。
一回目とは全然重みが違うけど。
「……俺は、母さんみたいに全面的に反対ってわけじゃない」
言葉の真意を量り兼ねて、黙る。
下手に口出しをできない雰囲気。泣いている母さんでさえ、声を殺している。
相変わらず笑みを乗せたままの唇が、刹那その笑みを消す。
きゅっと唇を結んで、俺は父さんをじっと見つめた。
反対じゃないってことは、きっと賛成ってわけでもない。
だとしたら、何が条件なのか。
「お前がこれ以上傷つかないなら、俺は何だっていいよ」
────ごめん、父さん。
「そ、っか」
それはきっと、できない約束だ。
傷つかないなんて。今この瞬間でさえ傷ついているのに。
この傷つかないが、物理的なことを指していると思えればよかった。
それならばまだ避けようがあるから。
自分が十二分に注意していれば、ある程度は回避できることだから。
でも、そうもいかない。
だって、精神的な事を言ってるって気づいてる。
俺は生きていく限り、いつだって傷ついてるよ。
「ごめんね、父さん」
その言葉に、全てを込めた。
席を立って、母さんの止める声も聞かず家の外へ飛び出す。
どうして、上手くいかないのかな。
きっと臨床心理士じゃなかったら、心理系の職業じゃなかったら。
警察だったとしても消防だったとしても自衛官で戦地に行くような立場だったとしても、父さんも母さんも分かってくれた。
いっそ裏稼業的な仕事だったとしても、臨床心理士になるよりはって、言ってくれそうな気がした。
それじゃ、だめなのに。
俺がなりたいのは、臨床心理士なのに。
どうして、こんなにも食い違ってしまうんだろう。
ごめんね、ごめん、父さんも母さんも。親不孝な息子で、ごめんなさい。
どうか自分達を責めないでほしい。
これは俺の問題だから、責めるも責めないも俺の自由だ。
もう、どうして。
「くそっ……」