双子の御曹司
次の日、早番だった私は、18時に売り場を離れ、食堂で夏休みの企画書を書いていた。
すると食堂の扉が開き、水野が入って来た。

水野は「お疲れ!」と右手を上げて笑顔を見せる。

「ハヤッ!」

私は、あからさまに嫌な顔をしてやる。

「なんだよ!?」

「18時なったばっかじゃん! 商品部ってそんなに暇なの?」

「アホ! 忙しっつぅの! 今日近隣店舗まで来てたんだ!」

水野はFMDでバイヤーも兼任している。

FMDとは担当地区の店舗を見回り、商品や売場担当者の相談にのったり、場合によってはヘルプにも入る。

水野は、各店鋪の社員からも信頼があり、頼りにされている様だ。

商品部でも信頼と実績があり、噂によると上の人からも期待されているらしい。

「なに? ヘルプだったの?」

「あぁ、水物のレイアウト変更、3件回ってやっつけて来た。お陰で昼飯抜き!」

「マジ? お疲れさま。」

「あー腹減った…」という水野に、ついさっき、他部門のパートさんから貰った、お土産のバームクーヘンの小袋を出してあげた。

「おーサンキュー!」

「私、コーヒーブラックね!」

「はいはい。」と水野は言い、自販機までコーヒーを買いに行く。そんな水野の後ろ姿を見て、閉店まで、こんな小さなバームクーヘン1つでもつのか? と、少し心配になる。

水野はコーヒーを買って戻って来ると、私の書いてる書類を覗き込む。

「それ夏休みの企画書か?」

「うん。副店長がさぁ、催事場使ってやってみろって言ってくれたんだよね? だけどさぁ、今からじゃ、出来る事限られちゃうじゃん?」

店舗での企画は、副店長の管理となっている。

当初の計画では玩具としては催事場を使う予定は無かったのである。

ただでさえ、夏休みは忙しいのに、催事となると人手や、商品の準備が大変なのである。





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