優しい胸に抱かれて
□時間が動く
 ゆらゆら波打って線みたいなものが泳いでいた。目を懲らすと、裁ち切った糸だった。私の[感情]は何の障害もない空間で、あてもなく気ままに彷徨っていた。

 夢の中で、ぼんやりと浮かんでいる糸を見つめていた。


 あの後、眠ってしまった私は車が激しく揺れた衝撃で頭をぶつけた。ゴツンッ、いい音が耳に届いて起きたのと同時に、おでこに痛みが走る。

「…ん。痛っ」

 痛みがある箇所を押さえ、薄く瞳を開けると辺りは真っ暗だった。

 自分がどんな状況に置かれていたのか呼び戻すのに時間が掛かる。

「間に合わなかった…」

 その声のする方に焦点を合わせる。痛そうに顰めた顔をしているのは余程大きな衝突音がしたのだろう。

 支えようと伸ばしたであろう彼の腕は、中途半端な位置で行き場をなくしていた。

「大丈夫か?」

 空中で止まった腕は私の顔の前まで動いてくる。そっと撫でるように頭に置かれる大きな手。ふわりとセドラの香りが漂った。

 それはほんの一時で、すぐに離れていき両手でハンドルを握る。

「ハンドル取られるくらい道が悪いんだ。これじゃ寝てられないな?」
 
 そうだった、旭川の帰りだ。ようやく思考が追いついてきて、姿勢を正す。

「ごめんなさい、寝ちゃった…」

「たった15分だけどな?」

 目一杯眠ったような感覚なのに、15分って聞くとおかしな気分。腕時計を確かめても彼の言う通り、時計の長針はそんなに進んでいなかった。
 

「もう少し寝てて欲しかったんだけどな」

「え?」

「あまりにも寝顔が可愛かったから、もう少し眺めていたかった」

 その横顔は恥ずかしげもなく、そんなことをさらりと言ってのける。あたかもこれが自然の流れだと知らせるみたいに。


「なっ…」

「こっち見過ぎ…」

 って、見られたくらいで照れている人の台詞とは思えない。
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