優しい胸に抱かれて
■嫌いと好き
‥‥‥‥‥‥

軽やかな足取りで日下さんと帰社すると、平っちが待っていたかのように声を掛けてきた。
 
『柏木だけ歓迎会の出欠、出てないじゃん』

年度が切り替わり追われていた事務処理も落ち着いてきて、新入社員の歓迎会を開催しようということになった。その幹事が平っちだった。

『出るよ。来週だったよね?』

『そう、来週の金曜日。二次会は?』

『二次会は出ない、終電で帰るから』

『終電で帰るの好きだね、混んでない?』

『混んでるけど、それが経済的なの』

奇数月にある反省会、その他に打ち上げって名目でちょくちょく飲み会もある。ランチは[なぽり]で食べたいし、ここ最近は忙しくて行けなかった映画だって観たい。ここはタクシー代を出すより、千鳥足の乗客まみれに紛れた方が財布には優しい。

『ちゃっかりしてるな』

ちゃっかりって、せめてしっかりしてると言ってほしい。


『あ、そうだ。悪いんだけど、これ経理課に出しといてくれない?』

そんな平っちは気にも留めず、領収書や請求書の束を渡してきた。

社内のシステムに使った経費を入力するのは自分たちの仕事だが、支払いは総務部経理課で処理をするわけだから、領収書や請求書の原本は総務部へ提出しなければいけない。

だけど、すぐに出せばいいのに溜めて滞るから、総務部から締日を守れとお叱りを受けていた。
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