優しい胸に抱かれて

『だから…』

もう一度、強く握られた手首に力が込められた。

『…俺の好きな子と、俺が半年前家に連れて帰った子は。…同一人物だよ』

手を引き寄せて私を隣に座らせた彼は、ベンチに背中を投げ出し顔を宙に向けて溜め息と一緒に『言わない予定だったのにな』と、呟いた。

色んな言葉が頭を駆け巡っているのに、肝心の脳の機能は着いてこないで、何がなんだかぐちゃぐちゃになった。

それはつまり、私のことを好きっていう解釈で正しいのか、それは自惚れじゃないってことでいいのか。よく分からなくなっていた。


『…何で柏木が泣くのさ?』

ちらりと向けられた瞳は切なそうに笑う。頬に熱いものが伝わっていることに気づいて、それを掌で拭う。


『だって…、主任。…私を嫌いって言ってました』

『俺が…?』

鈍くなる視界で眉間に皺を寄せる彼が映る。拭っても拭ってもあの時泣けなかった分の滴が落ちてきて、言葉に出したら泣きたくないのに涙が溢れた。


『嫌いって…、言った…』

『いつ?』

『…みんなで女子社員の、好みの話してました…』

『…ほんと、盗み聞きするの得意なんだから。しかも、その様子は最後まで聞いてないんだな。どっからどこまで聞いたの?』

私が美人の部類に入るのかってところから、彼の口が嫌いですねって言い終わるまで。それを言い終わるのにしばらくかかったのは、改めて言いたくなかったのと、やっぱり涙が邪魔をしたから。


『…見事過ぎて俺の方が泣きそうなんだけど』

体を引き寄せられて私の頭を自分の胸に押しつけた彼は、『どうせ盗み聞きするなら最後まで聞いてくれればよかったのに』そう、耳の傍でまた息を漏らした。
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