優しい胸に抱かれて
『確かに嫌いって言ったけど。あれは柏木の事じゃなくて、例えただけで…』
あの後の事を説明してくれた。一語一句抜かしていなければ、彼の話が本当であれば、私の大きな勘違いだったらしい。『だから、映画誘ったら断られたの、俺?』って言われて、思い切って顔を上げると、あの時の悲しそうな瞳が再現された。
『避けられてたから、嫌われたのかと思った』
『避けて…、ない』
『いつも助けてくれるのに、避けていたのは主任の方です』って、言葉として発せられなかった。避けてはいなかった。避けたかったけれど、私が避ける前に避けたのは彼だった。
『…ごめんな?』
言葉にならなかったのにそれを察した彼は謝ると、私の目の下に指を置いて、そっと滴の粒を払った。再び、胸の中に顔を埋められて『俺の好きな子は時々、俺を本気で困らせるからさ。今みたいに』って、囁くと頭を撫でる。
『…その泣いている理由。そろそろ教えてくれない?』
彼のことだ、もうきっとわかっているはずなのに、痺れを切らしたかのように訳を急かされた。
『…主任?』
『…ん?』
『…好きです』
『…俺も』
耳元で吐かれた息がくすぐったくて、吹っ切れたように好きって口にしたら、すうっと涙が引いた。今まで以上に強く抱きしめられているのに、苦しくなかった。