優しい胸に抱かれて
『体冷たくなってる。ってか、緊張し過ぎ』
『だ、だって…』
『前はへっちゃらだったくせに』
『それは、…意識する前だったからです』
『俺は意識し過ぎて眠れなかった』
『…嘘! 全然平気な顔してましたよ』
首を動かし顔を後方へ向けると、はにかんだように目を歪ませる。
『うん、隠すの大変だった。あの時は、理性とか色んなものと戦ってた』
『り、理性?』
『相手の男を殴りに行こうかとか、同じベッドに寝てしまった言い訳とか、このまま帰したくないとか、そういうの。それと、一応俺は男だから。ほら、布団入って。心配しなくてもまだ何もしない。大事にしたいから…』
と、背中から強めに回された腕に身動きができないでいると、小さく笑って『そんなに緊張されたら、その緊張が俺にまで移る』そう耳元で囁かれ、より一層ドキドキした。
高鳴る胸の鼓動は、私のなのか彼のなのか、どちらのものかわからなかった。
『主任は…、いつから私のことが好きだったんですか?』
天井に向けられた瞳は懐かしむように、静かに話し出した横顔を見入る。
『最初から。新入社員の出社日に、建物の前で困った顔してうろちょろしてた初々しい子がいたから、そこはお客さん専用の入り口って教えてあげた。どこの部署か聞いたら、緊張した様子で店舗デザイン事業部ですって。なんだ、同じ部署かと連れてったら、お礼言ってた』
『…え。それって』
1年前の遠い記憶が脳裏に掠めた。間違いなく、それは私のことだった。
似たようなカラーのスーツを纏った大人たちが、各々の部署へ気早に行き交っていた。単純な作りの建物で、3階に上がり真っ直ぐ突き抜けるだけだった。