優しい胸に抱かれて
 普段はふざけているのか何だかよくわからない態度で、1割くらいはまともなことを言う。本当に、おかしな人だ。と、顔を島野さんへ向けた時。


「痛っ…」

 何かがおでこに命中した。投げつけられたそれは、ぼてっと目の前に落ちる。梅とシールが貼ってある、コンビニのおにぎりだ。

「鈍い」

「投げるなら言ってください。あと、食べ物を投げないでください」

「昼飯ろくに食ってないんだろ、こういう時こそ飯を食ってエネルギーに変える。飯というのは米のことだぞ」

 などと言いながらぺりっと包みを剥がし、口に突っ込んだ。海苔のパリッと美味しそうな音が聞こえ、額を押さえていた手がおにぎりに伸びる。


「…頂きます」

 絶妙な塩加減、自分で握るよりコンビニのおにぎりが断然美味しいと思う。酸っぱい梅干しだろうと、空腹のお腹には刺激を与えずに優しく感じる。


 おにぎり片手にマウスを動かす島野さんを盗み見る。これでもかと目を平たくさせている。視界の下の方に入り込んでくる、ハートの形を縁取った桜色の物体。



 自分以外は信じられない、だけど私は自分自身を信じていない。


 騙して何になるのか。自分で答えを見つけろ。と、いつの日か部長に言われた。

 その答えの一つは余裕がなくても余裕があるように偽りの姿を見せること。気持ちに余裕を持てってことなのだろう。もう一つ、答えがあるのだとしたら。


 自分自身を騙せなければ、騙しているうちに入らない。他人すら騙せない。騙したところで何にもならない。
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