優しい胸に抱かれて
「月曜日は決まってるだろ。先週の金曜日と同じだ」

 部長がそう言ったのを見計らったかのように、島野さんが大笑いする。状況を知っているみんなも釣られて笑い出す。

「はあ? ふざけてんな」

 知らない日下さんが素っ頓狂な声を上げる。

「仕事納めと仕事始め以外は、2年前からこんな調子らしい。諦めろ」

「仕事納めと仕事始めって、年2回だけじゃねぇかよ」

 毒を吐く日下さんを島野さんが宥める。久々の光景なのにちっとも微笑ましさがない。


「不満そうだから紹介するとしようか。知ってる奴も知らない奴も、この減らず口が日下だ。そして、こっちのすっとぼけた奴が工藤。この二人の位置づけは先日渡した組織図通りだ。ああ、そういえば、柏木には渡してなかったな、後で取りに来い。朝礼は以上、後は個別で」

 何が「そういえば」、だ。「渡してなかったな」じゃない。白々しいにもほどがある。堪りかねて「わざとでしょ」、と。独り言を吐いた。


 形だけの朝礼を終えると、各自散らばった。前の方で繰り広げられている声だけが残り、人が行き来する合間にその姿が見え隠れする。

「その紹介の仕方に不満な場合はどうすりゃいいわけ?」

「すっとぼけたって、部長のことですよね?」

「だから、減らず口って言ってるんだ日下。お前もだ、工藤。すっとぼけてないとでも言いたいのか?」

「すっとぼけてるように見えます?」

「見えるから言っているんだ。わかってるならいい」

「心配しなくてもわかってますよ」

「お前等の席はまだないから適当に空いてる席でも使え。ついでに名刺もまだないからな」

「席くらい作っておけよ、雑だな相変わらず」

「日下は相変わらず口の利き方がなってないな」

「あんたにだけは言われたくない」

 聞こえてくる会話に背中を返し、パーティションを抜けデスクが並ぶ作業場へと舞い戻る。
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