計画的俺様上司の機密事項
project1:部長の秘密、部下の契約。
「夏穂、いいだろ」
10階建ての本社ビルの2階ワンフロアをぜいたくに使った、資料室。
資料室、といっても各部署にひと部屋は資料室があり、ここは資料室という名ばかりの物置部屋だ。
部署がない場所ということもあり、普段から人気のない場所。
会議が終わってから向かうから待っていてと言われていたので、3階の自分の部署の部屋から2階へ移動した。
普段は薄暗く締め切られた部屋なのに、なぜか部屋の空調が効いている。
9月に入った、午後も眠気を誘う15時、わたしの所属する部長から資料室に呼び出しされた。
最近、部長から何も連絡がなかったから、もう関係は終わっているとばかり思っていた。
10歳も歳の離れた部長なのに、付き合っているのか、付き合っていないのか、わからない関係だ。
部長は遅れたことを謝ることもなく、わたしの姿を見るなり、ぎゅっと抱きしめた。
明かりを灯しているのに、窓はブラインドが降りているので薄暗かった。
「こんなところじゃ、困ります」
「何で拒むんだよ。出世したくないのか」
噂はかねがね聞いていた。
女性社員の出世欲をかきたてるように、自分と付き合うだけで優位になるといった常套句だ。
「だからって、こんなところじゃ」
わたしの言葉に反応したのか、さらに抱きしめる腕のチカラを強めていく。
「じゃあ、どこがいいっていうんだ」
「どうして拒むんだよ。キスだけだよ?」
「キ、キスはまた今度にしましょうよ」
「夏穂、どうしてキスさせてくれないんだよ」
「ちょ、ちょっと、やめてくださいって」
部長の荒い息が顔にかかった。
もう少しで唇が重なりそうになった瞬間、ガサガサと奥から音がする。
すると、資料をかきわけて大きな背の男が近づいてきた。
半袖のYシャツにブルーのネクタイ、灰色のスラックスを身につけている。
うねった短髪の黒髪にちょうどいい太さの眉毛、きりっとした二重まぶた、すっとした鼻にちょうどいい肉厚の唇。
まさに端正な顔立ちといった言葉が似合う男だった。
< 1 / 252 >