彼が嘘をついた
「良かったな、遥。
こんなに綺麗にしてもらえて…」

「ヒロくん…」

「少し早いけど、気持ちを落ち着かせるにはいいだろう。
そろそろ行こう」

ヒロくんがそう言って、私のジャケットを着せてバックを渡してくれる。

「あぁ。
今日のお代は、晃から前もって頂いているから大丈夫。
あと遥ちゃん。
すごく綺麗だから、自信を持ってね。
大樹くん、安全運転で行ってらっしゃい!」

和馬さんに見送られ、私とヒロくんはスターホテルへと向かった。

和馬さんに魔法をかけて綺麗にしてもらったけど、なんだか落ち着かない。
考えれば、お断りする前提で受けたお見合いだから、相手の人について、
『五十嵐デパートの御曹司』と言う以外、何も知らないんだった。
…一応、相手の写真と釣書くらい、もらっておけば良かったな。
そんなことを思っても、いまさらだけど…。

スターホテルに着いたのは12時10分。
約束より早いけど、すでにロビーに父と兄がいた。
2人共、ちゃんとスーツ姿だ。
…今ごろ気づいたが、ヒロくんまでスーツ姿だ。

「…さすがだな。
洋子叔母さんの見立てと、和馬の技術は…。
服も、髪型も、メイクも完璧だ!
あとは遥。お前の振る舞いだけだな」

私を見るなり、兄はこんな失礼なことを言う。
< 162 / 198 >

この作品をシェア

pagetop