彼が嘘をついた
大樹の車が出たのを確認すると、俺も着替えて実家へと向かう。
実家では、父と母が着替えて待っていた。

「遥さんに会えるのが楽しみだわ」

「そうだな…」

父も母も、遥のことは写真でも見たことがない。
だから浮かれるのは分かるが、今はやめてほしい。
俺にとっては、彼女との将来を見据えて行けるのか、それとも、このまま会えなくなってしまうのか…その瀬戸際になるんだから。

遥のお兄さんからのお願いで、自分たちは先に会場に行っているが、俺たちには時間ギリギリに来て欲しいと言われたらしい。
同じ会社にいても、社長と、営業部長と、一般の受付嬢では、なかなか話も出来ないのだろう。
特に遥は、1人暮らしをしているのだから。

そんなことで、12時に実家を出た。
実家からスターホテルまでは20分くらい。そして、会場の"雅"まで歩くことを考えれば、約束の12時半になるだろう。

ホテルに着くまで俺が考えていたのは、もちろん遥のこと。

俺が見合い相手だと知って、どう思うのだろう?
身分を隠していた俺を許してくれるだろうか?
ちゃんと俺の話を聞いてくれるだろうか?
いろいろ聞いても、俺のことを好きでいてくれるだろうか?

不安だらけだけど、まずは『五十嵐デパートの御曹司』として、『四つ葉フーズの社長令嬢』に会うこと。
それが、俺たちの原点だから…






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