彼が嘘をついた
そんなこんなで、"雅"についたのは時間ギリギリになった。
店員に名前を告げると、個室へと案内される。
店員がノックをして、
「お連れ様ががいらっしゃいました」と告げる。

その声に続いて、まずは父が中に入る。
「これは佐久間社長。
今日はお時間を作っていただきありがとうございます」
佐久間社長に挨拶する。
2人の関係が良好なのが分かる。

次に母が、
「こんにちは」と続く。

俺も「失礼します」と1礼してから個室に入る。
そして、すぐに遥を見つけた。
お兄さんと大樹に挟まれている彼女は、ぎこちない笑顔で俺たち家族を迎え入れている。

レモンイエローのジャケットスーツで、髪をアップにし、しっかりメイクされている彼女は、いつものかわいいイメージとは違い、とても綺麗だ。それにプラスして、お辞儀にしても、立ち姿にしても、"社長令嬢"の風格が備わっている。
初めて、彼女本来の姿を見た気がした。

遥をずっと見ていたら、俺に視線を移した彼女と目が合った。
すると彼女は、驚いた表情で、
「えっ…?どうして?」
と呟いた。

やはり、俺がここにいることが信じられないのだろう。
"社長令嬢"と言う自分の立場を嫌い、「企業同士による政略結婚はしたくない」と言っていた彼女。

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