彼が嘘をついた
それから私は給湯室に寄り、湯呑みを準備してから庶務課に戻った。

「…戻りました」
そう言って席につく。

「遥、お疲れ様。
最初のお茶出しは、私も手伝うからね」
隣のデスクの兄と同期の先輩·坂本美鈴(サカモト ミスズ)さんが言う。

「美鈴先輩、ありがとうございます」

「うん。
それにしても、佐久間くんが直接、会議室の準備に携わるなんて、やっぱり噂は本当なのかもね」

美鈴先輩は、意味深なことを言う。
すぐに聞き返したかったが、

「佐久間さん。
会議室の準備、すまなかったね。
社長のご子息のお願いじゃ断れないかも知れないが、通常業務に差し障りのないようにしてください」
大石部長から、イヤミを言われてしまった。

どれだけ、会長一族が嫌いなんだろう?
ホント、嫌になる。

だけど、私の気持ちを察してか、美鈴先輩がイヤミで応酬してくれる。

「大石部長。
遥なら、ちょっとくらいイレギュラーな仕事が入っても、自分の仕事はキッチリこなすから大丈夫ですよ。
だって、いつも、恵の終わらない仕事をフォローしているのは、遥なんですから。
あっ。でも、誤解しないでくださいね。
恵の仕事量が多いわけじゃないですよ。
陽菜は恵と同じだけの仕事を、私や遥に聞きながらも、しっかり自分で終わしているんですから」


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