ビューティフル・ワールド

「…これが商品になって、街の人が簡単にさして歩く日が来るなんてさ。だけど…」

柳瀬がその先を言わなくても、大久保にもわかった。
りらがこの傘を作ったのは、彼女の絵が、大久保の手に渡る為に。
彼が救われる為なのだと。

「…僕、雨の日に、茅野さんに振られたんですよ。」

そうか、と柳瀬は言う。

「雨の日に…傘を持ってなくて…」

あの日の彼に、美しい傘をさしかけて。
雨を避けて。

濡れないで、進めと、りらが言っている。

「あの人、元気なんですね。」
「…元気も何も。」

相変わらず、彼女は気まぐれで、失礼で、柳瀬は振り回されてばかりだ。
今日もこうして他の男への贈り物を平気で持たせてくる。

美しい顔に、見たことがないくらい優しい微笑みを浮かべた柳瀬から、大久保は静かに傘に眼を戻した。

「…綺麗ですね。」

涙声で呟いて、それから、抑えきれずに声を上げて。
道端で傘をさしたまま、子どものようにわんわん泣き出した大久保が泣き止むのを、迷惑だなあと思いながらも、柳瀬はじっと待っている。

雨雲がずいぶん厚いから、予報に反して、もうすぐ雨が降り出すだろう。
自分はその前に家に着くことができるだろうか、と思いながら、
それでも、その傘に最初の雨粒が落ちてきて、その絵をきらめかせながら混じり合う様を、見たいような気もして。

ずぶ濡れになってしまったら、りらに、お前のせいだと文句を言ってやろう、と柳瀬は思った。






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