好きと言えなくて
葬儀を済ませた次の日、幼馴染みの信吾が訪ねて来た。


信吾とは幼稚園からずっと一緒の腐れ縁。


少し頼りないけど、いつも私の見方をしてくれた。


「両親も綾華をうちに連れてきていいと言ってるし、綾華一緒暮らそう。」


ありがとう。


信吾だけだよ、こんな優しい事を言ってくれるのは。


信吾に甘えても良いのかな。


その時、インターホンが鳴った。


葬儀も済ませたし、家を訪ねる人なんていないはず。


信吾が心配して出てくれた。


「綾華ちゃん、元気にしてた。」


突然家に入ってきたこの人は誰?


その綺麗なお姉さんが私を抱き締めた。


ちょっと離してください。


「綾華ちゃん分かる、私咲良、風間咲良だよ。」


え、風間咲良さん。


二年間だったけど、一緒に暮らしてたあの咲良母さん。


父さんがいきなり再婚して、綾華の母さんになる人だと紹介された。


母親の暖かさを知らない私にたくさんの愛情を注いでくれた人。


だけど、父さんの勝手で二年で離婚。


その時いたあの男の子はどうしているだろうか。


確か私より8才年上だから、今は26才。


智尋兄さんは元気かな。


「綾華ちゃんを迎えに来たの。東京で私と暮らそう。」


え、東京。


ちょっと待って下さい。


咲良母さんと会えたのは嬉しいけど、突然過ぎて頭がついていかない。


「綾華ちゃん、荷物まとめないとね。」


信吾が止めに入る。


「突然現れて何を言ってるんですか、綾華はうちに連れて行きます。」


「あらもしかして信吾君なの。大きくなったわね。綾華の父親に頼まれた事だから、私に任せて下さい。」


父さんが咲良母さんに私の事を頼んだって、どういうこと。


咲良母さんは信吾の言うことも聞かないで、私の荷物をまとめだした。


そうでした、咲良母さんはかなりのせっかち。


もうどうでもいいや。


咲良母さんと東京へ行くことを決めた。













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