雪見月
「すみません、迷惑かけて」


謝罪は少し掠れて聞き取りにくくなった。


まだ喉が落ち着かない。


ところどころ変に引きつれ掠れてしまう。


いいんです、と彼女は微笑んで、嫣然(えんぜん)と主張する。


「私が勝手にやっていることですから。やりたくなかったら申し出ませんし」


不甲斐ない自分が情けなかった。


彼女の厚意は温かく優しい。


「ありがとう、……ございます」


子供のように拙い感謝が溢れ出て、う、と思わず顔をしかめた俺に、くすり、笑って。


「いいえ」


彼女は綺麗な笑みを返した。
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