雪見月
行きましょうか、と誘われたのでつい頷いてしまいそうになったが、忘れていたことがあった。


止まる俺を不思議そうに振り返る。


「どうしました?」

「すみません、バイト先に連絡入れさせてください」


早めに連絡しないといけないだろう。


断りを入れると、分かりました、と了承してくれた。


彼女は俺を建物に寄りかからせ、

電話が使えるか確認し、

好き嫌いの有無を尋ねて最寄りのコンビニへ走った。


駅の近くだ。


コンビニくらい、視線を巡らせれば、必ずと言っても過言ではない高確率で目に付く。


さりげない細やかな気遣いに痛み入りつつ、スマホを操作。


寄りかかれるものがあるとやっぱり楽だし、

もし携帯が壊れてたら自分のを貸すと言ってくれたし、

電話を聞かないように、わざわざ買い物に行ってくれたんだろうし。


俺は連絡するだけなので、大したやり取りはしない。


内容を聞かれても別に構わなかったが、遠慮してくれた彼女はきっと育ちがいい。


迷いなく行動できるくらい、彼女にとっては当然の配慮なのだ。


そしてきっと、待たせないように、とすぐに戻ってくるんだろう。


思い描いた予測は、何だか当たっていそうな気がした。
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