となりの専務さん
「……なに」

木崎さんは明らかに不機嫌そうに私を睨みつける。出かけようとしているところを引き止めてしまったからイラッとさせてしまったんだろう。うう、目つきが怖い。


……でも、私は続ける。

「あの、掃除をサボったことに対しては私からいろいろ言うつもりはありません。でも、お父さんが入院したっていうウソをつくのは良くないかなと」

「は?」

「そ、そんなウソをつかれたお父さんがどんな気持ちになるか。周りの人たちもみんな心配してしまいます。
それに、入院って本当に一大事なんです。体のことですから。それをウソにしちゃいけないです……」


……なんて。ちょっとお説教してしまった……。


ただでさえイライラしていた木崎さんを、さらに怒らせてしまったかもしれない



でも、入院っていう言葉をウソに使うことはどうしてもやめてほしかった。
お父さんが入院した時、本当に本当にどうしようって悲しくなったからーー……。

でもお父さん、あの時よりずっと元気になってくれたみたいで本当によかった。


「う……」

「んなっ」

木崎さんが私を見てぎょっとする。
……私が、お父さんのことを思い出してなんか寂しくなって泣いてしまったからだと思う。


「お、おい、泣くなよ」

「ぐす……」

「わ、悪かったよ! もうそんなウソつかねぇから!」

木崎さんが慌ててそう言った。私が泣いいてる理由を、自分の発言が原因だと思わせてしまったみたいだ……単純に私が勝手に寂しくなって泣いてしまっただけなんだけど。



でも、一度流れた涙はなかなかひっこまなくて、つい涙を流し続けてしまった。




……木崎さんはなにも言わず、ただ黙って私が泣き止むのを待ってくれていた。
意外だ。さっさと部屋に入ってしまえばそれで終わるのに……。
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